日銀金融政策決定会合後のドル円相場展望  短期調整局面入りも下値限定的の可能性 

概況


長期は円高トレンド転換へ 消去法的な円買い圧力減退も後押し
みずほ証券 FXストラテジスト 鈴木健吾氏に聞く

みずほ証券 FXストラテジスト 鈴木健吾氏

みずほ証券 FXストラテジスト
 鈴木健吾氏

昨年11月以降のほぼ一貫した円売りでドル円は一時ついに90円を突破した。この間、政府や自民党の要人発言が円安を誘導した格好だ。円安進行は株式相場を大きく押し上げる原動力となっている。日本経済の先行きに明るさも見え始めている。こうした中で、日銀は22日、金融政策決定会合で新しい金融政策を決定したが、外国為替市場では、織り込み済みとあって現状ではドル円やクロス円のさらなる円安には結び付いていない。日銀金融政策決定会合後の為替相場はどう動くのか。最近の市場分析とともに、今後の相場展開などについて、みずほ証券投資情報部FXストラテジストの鈴木健吾氏に聞いた。

■今回の日銀金融政策決定会合の評価

 日銀金融政策決定会合については事前の報道等により、(1)政府との連携強化(2)2%の物価目標、(3)追加緩和政策導入――などが織り込まれ、注目は「日銀の目標に雇用が盛り込まれるか」「物価目標の厳格性」「追加緩和の規模や期限」「付利の撤廃や外債購入など新たな緩和策の有無」などがポイントとみていたが、この注目点の中で盛り込まれたのは資産買入等の基金について「期限を定めない」との文言のみだった。全般的に既に報道済みの内容で、為替市場の反応は総じて「織り込み済み」というものになった。

■ドル円の短期見通し

 22日の日銀金融政策決定会合以降、ドル円相場は、短期的には過熱感の調整局面入りを警戒する必要がある一方で、長期的には円高トレンドからの転換が明確になりつつあることから、下値は限定的となる可能性が大きいと予想している。

 短期的には、昨年終盤からの円安が顕著だ。安倍政権に対する政策期待と日銀に対する緩和期待といった内部要因に加え、この期間の欧米マーケットが取りあえず安定を維持しているという外部要因も重なっている。一方で、このところ円安は過熱感が強まっており、目先は調整局面入りを警戒する必要がある。ドル円は昨年11月14日に野田前首相が衆議院解散を表明してから、約2カ月で13%以上上昇している。2012年のレンジが14%、2011年が12%ということを考えれば、2カ月間で年間騰落率並みの上昇をしたことになり、過熱感に対する警戒が必要となろう。また、移動平均線からのカイ離などといったテクニカル面や、シカゴIMM通貨先物の投機筋の円ポジションで売越額が2007年以来の高水準に上っているなど需給面の上からも、いったんは過熱感の解消のための調整局面入りがあっても不思議ではない。12月以降、期待先行で円売りが進んできたが、1月の日銀金融政策決定会合というイベントが終わったことで、材料出尽くし感もあるようだ。

■相次ぐイベントリスク

 当面、為替相場に影響を与えそうなイベントが数多く控える。日本サイドでは、今回の日銀金融政策決定会合に続き、3月にかけて日銀総裁・副総裁人事がある。米国では年半ばにかけての債務上限問題や、「財政の崖」が意識された年末以降の経済指標が弱含む可能性もあるだろう。また、欧州では2月のイタリア総選挙などの政治的リスクや、ギリシャが3―6月に追加融資が必要となるリスクなどが注目される。この間、ドイツは9月には総選挙を控え、追加支出に動けないという事情もある。こうしたリスクの高まりを意識しながら、ドル円は短期調整局面入りとなる可能性が高いとみている。一方で、後述の長期的トレンドなどを背景に、押し目は比較的浅いものにとどまるだろう。

■ドル円の年内の下値・上値メド

 ドル円は、2012年9月の77.13円を安値に90円台を回復、一時90.24円を記録したが、今後の下値メドとして、テクニカル上は、この上げ幅の半値戻りや、フィボナッチの「38.2%」に当たる水準を考えると、ドル円は83―85円レベルまでの切り下げがあり得るとみている。これまで加熱した円売りの調整といえる。その後、長期的な円安トレンドへの意識を支えに、今年半ば以降は、9月の参院選挙を控えての政府への新たな政策期待や、欧米の債務問題の改善期待を背景にしたリスク回避の後退などにより、次のドル高・円安に向かう機運が次第に広がると予想している。夏場に84―89円、参院選前後かけて上値メドとしては200日移動平均線の15%カイ離に当たる93円か、または、2010年5月高値の95円あたりというイメージでみている。このところ100円という見通しも出始めているが、現時点では、今年中にそこまで円安が進むかは疑問視している。ドル円が100円を超えるのは、来年ではないか。

■ドル円の長期見通し

 ドル円は、2007年の124円を頂点に、リーマン・ショックや欧州債務問題などを背景にした資金の円への流入により4―5年をかけて75円台まで約50円の円高が進んできたが、長期的に見れば、円高トレンドは転換した可能性が非常に高い。日本の貿易収支が2011年に赤字に転換し、さらに2012年は過去最大の赤字を記録したことなどから、為替市場での資金フローが円売り方向に構造的に変化している。また、株式や金利市場の落ち着きから欧米のリスクが後退していることにより、これまでの消去法的な円買い圧力が減退していることもトレンド転換を後押しするだろう。

■今後の米国経済などの動向

 今後のポイントとなる米経済の動向については、増税による個人消費の落ち込みが予想されるが、住宅部門の好調さはまだしばらく続くだろう。サブプライムショック後の米景気の不振はバランスシート不況であり、日本のバブル崩壊を発端とした不況と類似している。しかし、両社のスピード感は全く違う。金融機関への公的資金の投入は、日本が住専処理を行ったのが6年後、りそな銀行が国有化されたのは13年以上も経過してからだ。これに対して、米国はフレディマックの救済が約1年後、ストレステストは1年半後に実施している。米当局は、日本の「失われた10年」から教訓をかなり学ぶことにより、的確で迅速な対応を行ったとも考えられる。こうした取り組みの結果、米国では、個人、企業ともにバランスシート調整がほぼ終了しつつあると考えられる。米景気は特に年後半から上向いていくと予想している。また、中国経済の底入れ期待や欧州債務懸念の後退など世界的に明るさが増している。このような中、超低金利の継続が見込まれる円は、ほかの通貨に対し全般的に下落する傾向が強まるのではないかと考えている。

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