世界経済展望 2013年 米国、先送り投資需要喚起の可能性

概況


FRB、年央に資産買取額半減でも長期金利の低位安定続く
バークレイズ証券 チーフ外債ストラテジスト 高橋祥夫氏に聞く

バークレイズ証券 チーフ外債ストラテジスト 高橋祥夫氏

バークレイズ証券
チーフ外債ストラテジスト
高橋祥夫氏

2013年の世界経済はどうなるのか。2012年は、当初けん引役として期待された米国や中国の景気回復が遅れ、主役不在のまま年を越した格好だ。しかし、欧州経済の先行きはなお不透明なものの、米国で「財政の崖」が取りあえず回避され、中国経済にも底入れ機運が生じたことで、2013年の景気回復期待が徐々に広がっている。そこで、バークレイズ証券チーフ外債ストラテジストの高橋祥夫氏に米国を中心とした世界経済の現状と今後の見通しなどについて聞いた。

米経済の現状

 世界経済が最悪期を脱した兆候が増えている。12月のグローバル製造業PMI(購買担当者指数)は5カ月ぶりに拡大・縮小の分岐点である50を上回った。米ISM製造業景況指数も11月に一時的に50を割り込んでいたが、12月は50台を回復した。特にISMの輸出受注指数は7カ月ぶりに50を上回っており、世界経済の回復が米国にも好影響を及ぼし始めていることを示唆している。

 米2012年7-9月期実質GDP(国内総生産)は前期比年率△3.1%と一見強い数字だったが、在庫の増加で0.7%も押し上げられており、企業設備投資はむしろマイナスに転じていた。この背景には、大統領選挙の不透明感や「財政の崖」への懸念があった。「財政の崖」とは、大統領と議会が何も決定しなければ2013年に総額6500億ドル(GDP比4%程度)の財政緊縮(増税・歳出削減)が行われる見通しとなっていたことを指す。これが完全に発動されれば2013年の米国経済は再び景気後退に陥るリスクがあると考えられていた。

今後の米経済

 「財政の崖」は間際で回避され、2013年の増税は1900億ドルにとどまることとなった。ただし、今回の決定は税制に関するもののみであり、強制的な歳出削減については3月1日まで延期されたにすぎない。また、2月半ばから3月初めには連邦政府の債務が法定上限に到達する見通しである。このため、今後1―2カ月中に大統領と議会は財政協議の「延長戦」を行うことになろう。それでも先行き不透明感が多少は解消されたことは確かであり、これまで先送りされてきた投資需要が出てくる可能性がある。

 米経済の明るい点としては、住宅市場の回復が指摘できる。S&P/ケースシラー住宅価格指数をはじめ住宅価格の指標は明確に底打ちしている。NAHB(全米住宅建設業協会)の住宅市場指数は上昇傾向にあり、12月には一戸建て販売の現況指数、向こう6カ月の販売見通し指数ともに拡大・縮小の分岐点である50を上回った。NAHBの住宅市場指数は住宅着工件数に半年程度先行するとされているため、これは心強いシグナルである。

 ただし、金融面の問題から住宅部門の回復は当面は緩やかなものにとどまろう。FRB(米連邦準備制度理事会)の銀行の融資担当者を対象とした調査によれば、住宅ローンの資金需要は旺盛だが、銀行の貸出基準は依然として厳格な状態のままだ。この背景には、「隠れ在庫」と言われる延滞・差し押さえ物件を銀行が依然として多く抱えていること、信用力の低い借り手の住宅ローンの証券化市場が崩壊していること、金融規制の強化で融資が抑制されていること、などがある。

 こうした中、FRBの金融緩和による下支えは引き続き必要とされよう。12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、月間の資産買い取り額の400億ドルから850億ドルへの増額が決定されたことに加え、失業率が少なくとも6.5%を上回っている間は現行のゼロ金利政策を維持することが表明した。現在の失業率は7.8%であり、FRBは雇用の回復が緩慢なものにとどまると予想している。FOMC議事録によれば2013年中の資産買い取りの見通しについてのメンバーの意見は分かれているようだが、重要なのはたとえ年央に資産買い取り額が半減されるとしても(QE3=量的緩和第3弾=が開始された)2012年9月から2013年末までのFRBのバランスシートの拡大は8700億ドルにも達するということである。これだけの資産買い取りが行われることから、米国の長期金利は低位安定が続くであろう。

シェールガス革命と製造業の国内回帰

 注目すべき動きとして、米企業が工場を米本国に戻し始めている。例えば、アップルは12月にパソコンの一部機種の生産を9年ぶりに中国から米国に戻す方針を発表した。この背景には、中国の賃金の急上昇により輸送コストを考慮すると中国での生産の優位性が低下したこと、中国への情報流出への懸念が強まっていることに加えて、シェールガス革命で米国のエネルギー・コストが世界で突出して安くなっていることがある。

 米国では、頁岩(シェール)から天然ガスを取り出す新技術の開発によって天然ガスの生産が急拡大し、それが天然ガス価格の下落につながっている。昨年12月現在で、米国の天然ガスの指標価格(ヘンリーハブ)は100万BTU(英国熱量単位)当たり3.4ドル程度となっており、欧州の10.9ドルや日本のLNG(液化天然ガス)輸入価格の15.5ドルに比べてはるかに安い。安いエネルギー価格は米国の産業競争力向上につながる。さらに、シェールガスと同じ技術で石油を取り出す技術も開発され(シェールオイル)、石油生産も急増している。IEA(国際エネルギー機関)の最新予測によると、米国は2015年に世界最大の天然ガス生産国、2017年に世界最大の産油国となる見通しだ。

 燃料収支は米国の貿易赤字のほぼ半分(2011年は石油だけで44%)を占めているため、エネルギー自給率が上がれば貿易収支は改善する。加えて、シェールガス革命が米国の製造業の国内回帰につながれば、貿易収支への影響はさらに大きくなるだろう。米国の財政協議が完全に決着し、不透明感が解消されれば、ドル相場もこうした見通しを反映し始める可能性が高い。年末の円相場は1ドル=92円、ユーロ相場は1ユーロ=1.22ドルを予想している。

 ちなみに、オバマ大統領はシェールガスを戦略的な商品として位置付けており、FTA(自由貿易協定)締結国であれば比較的容易に輸出の認可が下りる。米国のシェールガスのLNG輸出は2016年にも本格化する見通しだが、日本はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加しないかぎり安価な天然ガスを輸入することは難しいかもしれない。

ユーロ圏経済と金融政策

 ユーロ圏の2013年の実質GDP成長率は0%と予想している。ユーロ圏の国内需要は既にリーマン危機後の最悪期の水準に戻っている。特に最近はフランスとオランダの低迷が懸念される。ECB(欧州中銀)の政策金利は現在0.75%であり、少なくともあと1回の追加利下げの余地がある。また、ECBは現在0%の中銀預金金利をマイナスとする可能性も否定していない。ただ、当面は追加緩和をほのめかすことで市中金利の低下やユーロ相場の下落を促す方法をとるのではないかと考えている。一方、欧州周辺国の国債市場では、外国人投資家の比率が大幅に低下しており、新たな売り圧力が生じる可能性は低下している。ECBが新たな国債買い入れ策(OMT)を発表して以降、欧州周辺国の国債のリスクプレミアムは低下してきた。ただ、欧州統合の深化に向けた動きは足踏み状態にある。これはユーロ崩壊に対する懸念が後退したことを背景にした緊張感の緩みを反映した面もあろう。今年秋のドイツの総選挙が終わるまでは、深刻な危機がなければ欧州統合に向けた重大な政治決定を行うことは難しい。欧州の状況は小康状態にあるが、抜本的な問題解決に向けた動きは道半ばである。

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