為替相場 2013年の展望  まだ考えにくい本格的な円安トレンド

概況


SMBC日興証券 為替ストラテジスト 野地慎氏

SMBC日興証券
為替ストラテジスト 野地慎氏

なお弱い海外経済、日本から海外への資金シフト限定
SMBC日興証券 為替ストラテジスト 野地慎氏に聞く

2013年の為替相場には例年に増して関心度が高まっている。日本の輸出企業のみならず、日本全体が円安歓迎ムードだ。もっとも、日本の企業サイドからは「円高の修正、円安ではない」との声も。実際は、円高、円安とも経済にとってメリット、デメリットの2面性を持っているが、差し当たって当面は円安が日本の景気の救世主といった受け止め方がされている。円安とともに日本の株式相場は反騰の動きを示している。長期的に見れば、歴史的な超円高は終わりを告げるとの見方も少なくないが、2013年に限ってみれば、見方が分かれている。このまま円安が一段と進行するとの見方と、まだその時期ではないとの見方だ。今後の為替相場のポイントや、相場展開、金融政策などについて、SMBC日興証券金融経済調査部の為替ストラテジストの野地慎氏に聞いた。

円安進行に材料不足

新しい金融政策の下で今後一層のドル高・円安が進むことが可能なのかがポイントになろう。3、4月にかけて日銀の新しい副総裁、総裁が就任し、新総裁の下で新しい日銀がスタートする。その期待もあってドル円はしばらく底堅い展開が続きそうだ。しかし、一層の円安には相当の材料が必要とみている。今年のドル円のレンジは通年で78―92円、コアレンジは81-87円と予想している。投機筋の円安期待が剥落し、またリスク・オフなども重なれば80円割れの可能性も排除しない。ユーロ円は98-119円のレンジで、中心は108円、一時的に100円割れの場面も想定されよう。

シカゴIMM非商業部門(投機筋)の円先物ショートポジションは、ドル円の84円台で9万枚程度と、2007年以来の高水準に膨らんでいる。円売りの資金は豪ドルや加ドルなどへシフトしており、つまり、円キャリートレードも2007年以来の高水準に上っていると言える。こうしたシカゴ筋の円売りポジションは、日銀・政府が最大の対応をすればキープできる程度であり、さらなる円安進行を促すには現時点では材料不足とみている。

海外勢が円売り材料として期待するのは、日銀による「これまでにはなかった金融緩和策」であろう。しかし、日銀には何ができるのか。「2%のインフレ目標」「無制限の資金供給」といったキーワードが独り歩きしているが、目標はあっても、それを進めるためには、日銀の資産買入基金等の拡大しか手はない。海外勢が期待する官民協調ファンドによる外債購入は介入にほかならず、介入のコンセンサスを得るためには日米同盟の強化が何より最優先だ。安倍政権は日米同盟強化を最重要課題と位置付けているようだが、円安誘導が認められるには、例えば、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)とのバーターが必要か。しかし、夏の参院選までは有権者への配慮から自民党は米国に対して満点の回答はできないだろう。つまり、日銀、政府にとって外債購入のハードルはかなり高い。ETF(指数連動型上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)を日銀が買えばインフレ期待も高まろうが、それぞれ市場規模が小さ過ぎる。結局、長期国債の買入れを増やす以外ないだろう。しかし、これまでの長期にわたる量的緩和でも実現できなかったデフレ脱却を、今後、長期国債の買い入れ規模を拡大するだけで実現できるとは考えにくい。インフレ率の上昇は難しく、インフレ目標を達成できないとの認識が広がり、デフレからの脱却に限界が生じると、海外勢の円安期待も剥落(はくらく)し、いずれ円買い要因となろう。

米に金融サポート必要

日銀の量的緩和政策が効果を発揮できないとなると、経済好転による海外長期金利の上昇への期待がおのずと高くなる。つまり、海外の経済が良くなれば、マネーフローの面で円が外貨に流れ、円安につながるとのシナリオが描ける。海外との金利差拡大で米国債やユーロ債にシフトすれば、円安の期待が出てくる。しかし、当面、海外経済に対して強気にはなれない。米「財政の崖」は「回避された」と表現すべきか。2月の議論いかんによっては当初の「財政の崖」の半分程度の「崖」が生じることとなった。また「崖」の多くが富裕層や給与所得者への「増税」となって、相応の「崖」が残ってしまった。このところ米経済成長を引っ張ってきたのは個人消費であるが、中低所得者層の場合、資産は目減りしており、投資マインドのボトムアップはされていない。一方、富裕層が突出して金融資産を拡大してきた。米消費の底堅さの主因は富裕層によるものといえる。増税によって富裕層の投資マインドが抑えられれば、米経済の拡大は難しく、金融面のサポートが必要となろう。今年の米GDP(国内総生産)が潜在成長率以下の水準が継続するなら、FRB(米連邦準備制度理事会)は利上げには動きにくく、日米金利差が開くことはないだろう。こうした投資環境では、円からドルへの資金シフトも起こりにくい。

また、ユーロ圏も良くない。財政緊縮の下でも、ECB(欧州中央銀行)の政策金利は既にゼロ金利近くにあり、これ以上の利下げは難しく、金融サポートもままならない。ECBの新たな国債買い入れ措置(OMT)の決定をきっかけに、ユーロ円は110円を超えているが、イタリアの総選挙を控えての政治リスクに加え、スペインやポルトガル、ギリシャなどのデモやストライキのように国民の不満の高まりによって引き起こされる社会不安の発生も、当面のユーロを見る上での重要なポイントになろう。現在のユーロ圏情勢では、日本のマネーはユーロにシフトしにくいと考えられる。

豪、高金利の魅力低下も

さらに円キャリートレードの代表的な投資対象である豪ドルは、売る材料が少なく、その分が上昇している格好だが、円キャリートレードが活発化する投資環境にあるとは思えない。オーストラリアでは景気の一段の減速が懸念されている。中国などの景気が上向けば持ち直しも期待できようが、最大の輸出品である鉄鉱石などの市況は依然として軟調に推移している。また、豪ドル高もあって、景気の下支えのため、オーストラリア準備銀行が追加利下げに踏み切ることも考えられ、現行3.0%の政策金利は2.5%まで引き下げられる可能性があると予想している。そうなれば、もはや豪ドルは高金利通貨とはいえない。高金利としての魅力が薄れればキャリートレードが強まることは疑問となる。

オーストラリアの最大の輸出先である中国についてはまだ財政面からの投資余力があり、景気への対応ができる。しかし、公共投資や、鉄道などのインフラ投資だけでは、同国の景気浮揚効果はあるとはいえ、世界経済のリード役になるほどの力はないとみている。設備投資についても既に設備過剰な状態にあって限度がある。

こうした世界経済の状況では、日本から海外への資金シフトにもおのずと限定されよう。2013年中には、円安トレンドが本格化するとは考えにくい。ドル円が90円台前後に切り上げるのは、2014年以降ではないかとみている。それまではまだ、山あり谷ありだろう。

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